6月16日~しなやかな人生のすすめ
梅雨の最中、素晴らしいニュースが飛び込んできました。
大リーグに挑戦し十六年、四十二歳になるイチロー選手が、日米通算でピートローズが持つ最多安打を抜く記録、四二五七本を成し遂げたのです。
テレビではイチロー選手のインタビューが放送されていましたが、「ここにゴールを設定したことがないので、実はそんなに大きなことという感じはまったくしない」、「チームメートやファンの祝福がうれしい。それがなかったら何もたいしたことはない」と、この記録を一つの通過点でしかないと述べ、「常に笑われてきた歴史、悔しい歴史が僕の中にある。これからもそれをクリヤしていきたい」と、野球界での多くの金字塔をうち立てた原動力を述べましたが、淡々と、しかし言葉を選びながら真剣に語る姿を見ながら、私はお釈迦様のお言葉を思い出しました。
「犀の角のようにただ独り歩め」
この言葉を、仏教学者の中村元先生は、「犀の角が一つしかないように、道を求める者は、他の人々からの毀誉褒貶にわずさわされることなく、ただひとりでも、自分の確信にしたがって暮しなさい」と解説されています。
「独りで歩め」とは、周囲のことはかまわず一人で脇目もふらずとか、一人ぼっちでとか、自分さえよければいいというような意味ではありません。
お釈迦様は、慈しみと平静とあわれみと解脱と喜びとを時に応じて修め、世間すべてに背くことなく」と言葉を添えられます。
周囲に対し慈しみと穏やかさの心を寄せること、そして目的を達成する喜びを時に応じて味わい、世間から様々な声があろうともそれに表だって背くことなく、目標に向かって真っ直ぐ静かに歩みなさいということでありましょう。
イチロー選手の記録達成の裏には、弛まぬ努力はもとより、心と体のしなやかさがありますが、お釈迦さまの「犀の角のようにただ独り歩め」という言葉にも、仏法によるしなやかな人生の勧めが表されています。
2016年06月17日【263】