10月1日~裏を見せ、表を見せて…。
お彼岸も過ぎて、朝夕次第に、肌寒く感じる季節となりました。
さて、曹洞宗のお坊さんで、多くの人々に親しまれた良寛さんの詩に、
裏を見せ 表を見せて 散る紅葉
というものがあります。
いよいよ秋も深まり、これから紅葉の季節。やがて一枚、また一枚、ひらひらと落ち葉が散っていきます。新緑の季節から日照りの強い夏を経て秋を迎え、いよいよ冬間近に散っていく枯れ葉は、裏を見せ、表を見せながら、地面に静かに落ちていきます。
良寛さんの辞世の一句といわれますが、七十歳のときから四年間お付き合いをした、貞心尼のお別れの詩に対し詠んだ句と言われています。
お坊さんでもあり歌人でも有名な良寛さんは、貞心尼と過ごした四年間の歳月は何一つ包み隠すことのない、純粋なものだったことを最後に伝えたかったのでしょうか。それと同時にこの詩は、落ち葉散りゆく姿に、人間の生きる姿を問うた詩と味わうこともできます。
つまり、人間も、いよいよ今生の命が尽きるその時に、これまでの生き様が洗いざらい見えてきて、その人がどれほどの人であったかがわかるということです。
私たちは日々、様々な喜びや悲しみ、時には怒りや悔しさを感じながらそれぞれ生活をしていますが、その人生が賎しくなるのも、逆に尊くなるのも、その人の行為、生き方によるのであり、いよいよ命が尽きるときに、それはあからさまになるのでしょう。
仏さまのお慈悲の光に照らされ、心豊かな仏道を歩まれた良寛さんは、その繕いようのない人の有様を、晩秋の落ち葉に見られたのでありましょう。
裏を見せ 表を見せて 散る紅葉
暮れゆく秋に、少し仕事の手を休めて、落ち葉に目を向けて、その姿を味わうのもいいものです。
2012年10月01日【177】