8月16日~自分のこととして…
スポーツの祭典、リオのオリンピックはいよいよ終盤です。
さて、暑いこの季節、お寺で紹介されるお話に芥川龍之介の『蜘蛛の糸』がありますが、私があるお寺の親子の集いでこれをお話ししたときのことです。
大泥棒のカンダタは生前の罪で地獄に堕ちて、煮えたぎる釜の中で喘いでいます。
その様子をご覧になったお釈迦さまは、カンダタが生前、一匹の蜘蛛を踏みつぶさなかったことを思い出されて、一度だけ地獄から助かるチャンスを与えようと一本の蜘蛛の糸をたらされました。
それをつかんだカンダタは助かろうとよじ登ります。しばらくして下を見るとなんと、地獄の亡者が次から次にと蜘蛛の糸を上ってくるではありませんか。
細い糸が切れてしまうと思ったカンダタは、「これは俺のものだ。お前たちは上ってくるな」と下に向かって叫んだとたんに糸は切れて、カンダタもろとも皆再び地獄の釜に落ちていったというお話です。
このお話をした後、数名の親子の話し声が聞こえてきました。
あるお母さんは、「正人君、お坊さんが言ったのはあなたのことよ。あなたすぐ虫を殺しちうじゃない」と子どもに向かって言われました。別のお母さんは、「由美ちゃん、あのカンダタはあなたみたいね。あなたはおもちゃを独り占めして、妹たちや弟たちに貸してあげないでしょ。あんなことしてたら、お坊さんが言ったみたいに地獄に落ちちゃうわよ」と言われました。
その話し声を聞きながら私は、「お母さん、お宅のお子さんのことかもしれませんが、お母さんあなた自身の姿はどうですか」と心の中で問いました。
お母さん、家庭の中で、つい害虫と決めつけて小さな虫たちをむやみに殺していないですか。日常生活の中で、つい自分さえよければいいという心にとらわれることはないですか。
『蜘蛛の糸』のお話もお寺のご法話も、自分のこととして聞かせていただかなければ意味はありません。難しいことです。
2016年08月18日【267】