11月16日~そのカゴを水につけよ!
初冬の穏やかな日差しを小春日和と言いますが、寒さの中の小さな春です。
さて先日、本堂で法事をお勤めし、ご法話が終わった直後のことです。お参りに来られていた高齢の女性が私に質問されました。
「私はご覧の通り高齢で、手も震えてメモを取ることができません。ですから、今お坊さんが話してくださった有り難いお話をしっかりと聞いて帰ろうと思うのですが、いつも、右の耳から左の耳へ通り抜けて、時間が少し経つと何も頭の中には残りません。どうしたらいいでしょうか」
私の拙い話を有り難いと思い、そして聞きとどめたいと思ってくださるとは、これはまことに有り難いことです。
その女性の質問に対して、私は蓮如上人のお言葉を紹介しました。
「おばあちゃん、それはこの私も一緒ですよ。私もご法話を拝聴したしばらくの間は覚えているのですが、時間が経てば忘れてしまいます。でも、そんな私たちに蓮如様は、『そのカゴを水につけよ』とおっしゃいます。
竹で編んだカゴに上から水をかけると、水はカゴの隙間を抜けて全部下にこぼれてしまいます。つまりこのカゴが私たちということです。仏様のお話を聞いて、有り難いな、よかったな、ちゃんと覚えておかなければと思っても、水がカゴをさっと通り抜けるように、時が経てばすぐにお話を忘れてしまう。
蓮如様は、ならばいっそのこと、カゴを水につけておけば忘れることなく、仏さまのみ教えにずっと浸っていることができますよということです。つまり仏様のお話を聴聞する機会を重ねることの大切さをおっしゃっているのです」
「そのカゴを水につけよ」
日本全国、報恩講の季節です。そうぞ、近くのお寺に足を運びお聴聞を重ねて、仏さまのみ教えに心身を浸しましょう。
2021年11月18日【392】